平成25年6月27日
厚生労働大臣 田村 憲久 殿
厚生労働省医政局長 原 徳壽 殿
一般社団法人 日本外科学会
理事長 國土 典宏
外科医労働環境改善委員長 富永 隆治
要望書
近年、対象患者の高齢化、疾病の複雑化、事務仕事の増大等が重なり医療現場の業務量は年々増大しています。外科は、一人前の術者になるまでの研修期間が長い、訴訟等のリスクが高い、高度の手術手技に対する評価を含め、仕事に対する報酬が低い、労働時間が長い等の理由から敬遠される傾向にあります。外科医師数の減少は臨床現場の過重労働を加速させ、さらに若手医師の新規参入を減少させるという負のスパイラルに陥っています。日本外科学会はこのことを重要な問題ととらえ、外科医の労働環境調査を行い、改善を訴えて参りました。直近の二回の診療報酬改定(手術料増額)によって外科に特化した改善策をとる病院が増加し、いくつかの病院では手術に対する手当をつけるところも出てきました。
しかし全体としては外科医の労働環境は従前と変わらず、労働時間は長く、責務は重く、外科医は懸命に高いレベルの外科医療を支えています。
今回の調査では全体の労働時間は平均週78.5時間、過労死の認定基準に達するものが実に全体の70%を超えていました。当直勤務明けの手術参加も日常化し、多くの外科医が疲労による医療事故・インシデントを経験していました。伝統的に外科医には強い責任感と使命感が求められ、時間的にほとんど制限なく診療に従事し、それが当然とされてきました。医師の責任を果たすという意味からは理解できますが、留意すべきは、過労は医師の健康を損なうだけでなく、注意力低下による医療事故を引き起こすことであり、安心、安全な医療を国民に提供できなくなることが危惧されます。
米国では<1>週80時間を越えない勤務時間、<2>週一回の完全な休日の確保、<3>連続勤務時間の上限設定がなされています。
我が国に必要な手術数を行いながら、これを実現するためには、メディカルクラーク、メディカルスタッフの充実はもとより、周術期管理、手術助手等の簡単な医療行為を行うことができる、医師と看護師の中間職種を創設・養成する必要があります。この中間職種の存在により、外科医の当直明けの業務軽減が可能となり、また外科医が本来業務である手術に専念する時間が増加し、その結果として外科医療の向上に大いに役立つものと期待されます。古い制度に拘泥せず、時代に即した医療制度改革を早急に実現していただくことを切望いたします。