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外科医希望者の伸び悩みについての再考

Last Update:2022年4月27日

外科医希望者の伸び悩みについての再考

一般社団法人日本外科学会
前理事長 森 正樹
理事長 池田徳彦
副理事長 武冨紹信

2018年に新専門医制度が開始されて以来、外科専攻医採用者数はわずかながら増加していました。しかし2022年の採用者数は852人と2021年の904人より52人減少しました。専攻医全体に対する割合も9.8%から9.0%に低下し、2020年の9.1%を下回る数字です。若手外科医の確保は、外科医療を遅滞・衰退させないために、最も重要な課題と言っても過言ではありません。これまでの種々のアンケート結果から、外科希望者の減少理由として、外科医は専門医資格を取得するのに時間がかかり生涯労働期間が短い事、勤務時間が長い事(ワークライフバランスが十分に考慮されていない事)、給与が勤務量に見合っていない事、医療訴訟のリスクが高い事、女性医師への配慮が乏しい事などが挙げられています。そこで本学会ではこれらの課題の解決に向けて積極的に取り組んできました。
専門医資格取得に関しては、基本領域として3年間の外科専門研修を行い、引き続いてサブスペシャルティ領域の連動研修をする事により、内分泌外科領域以外では他領域とほぼ同期間で目標の専門医資格を取得できるようにしました。内視鏡手術やロボット手術の普及により、外科医の寿命は延びると予想されていますし、また、全身を俯瞰的に観ることができるため、外科医は手術を行わなくなった後も総合医としての需要が多いと期待されていますので、生涯勤務期間は決して短くないレベルになると思います。
2024年から医師の働き方が法的に監視されるようになります。特に過重労働の可能性が高い外科医の労働環境改善は重要です。これまで労働時間の短縮を叫びながらも、なかなか実を結びませんでしたが、今回は法的規制がかかるために、全国の病院で対応を迫られることになり、結果的に外科医の労働環境は大きく改善されると期待できます。ただ、これを実行するには正確な労働時間管理のもとで、個々人(特に指導者レベル)の意識改革、タスクシフトの推進、仕事の効率化の推進(カンファランスの短縮やチーム医療の導入など)など問題が山積しています。本学会としては特にタスクシフトの推進に向けて厚生労働省_と協力しながら具体的かつ適切な提言を行い大きな役割を果たしてきました。さらに推進していく予定です。他方で、中堅・若手の中には当直時間の削減などで年間収入の減少を心配する声もありますので、このような負の側面についても勘案していくことが大切です。
外科医にインセンティブを付与する点については、これを目的の一つとした大幅な診療報酬改定がありました。しかしながらその増収分は、多くの病院で本来の目的には使われず、病院の赤字補填に使用されたと聞きます。これを外科医へのインセンティブとして正しく使用されるようにしなければなりません。病院長の強いリーダーシップに期待したいと思います。また、高度な医療の実践にはある程度の頻度で合併症が起こります。予期せぬ合併症により患者さんはもとより外科医が精神的にも肉体的にも疲弊しないようにすることが大切です。そのために、外科医療補償制度(無過失補償制度)を策定すべく厚生労働省に働きかけています(道のりは簡単ではありませんが)。
外科医にとって学術活動は欠かせないものですが、分野の細分化により学会数が多くなりました。特に若手・中堅の皆さんには複数の学会への参加と発表に多くの時間を取られている現状があります。これを改革するために、学会の開催期間と開催地の集約化を企図しましたが、図らずも新型コロナウイルス感染症の発生により、web開催が現実のものになりました。これにより学会活動による時間制約が大幅に改善されたように思います。今後はwebと現地のハイブリッド開催が主流になりますので、この方式の一段のグレードアップを図る必要があります。他方で、もう一つの課題である本学会とサブスペシャルティ学会のテーマの重複も解決する必要があります。今後は本学会とサブスペシャルティ学会の担当委員が定期的に会合を持ち、プログラム作成が慎重に行われて重複をなくす事と期待しています。
女性医師に十二分に活躍してもらえるような工夫が必要です。医学部入学生の半数が女性になり、近いうちに現場で活躍する女性医師の割合は格段に増します。現在、当学会の女性会員比率は10.3%ですが、年々増加しています。本学会としても女性医師の労働環境の改善やキャリア形成の支援策は重要かつ緊急度の高い課題と考えており、女性理事の登用と共に、あらゆる面で男女共同参画を推進するように企画しています。特に出産など一時的に現場を離れたあとに復職する際の技術指導などを行う仕組みを作らなければなりません。さらに若手の会員に一層活躍してもらうように考えています。たとえば教育委員会にU-40の医師に参加してもらって、企画を創出したり、SNSを有効利用した情報発信の拡大に尽力してくれる事を期待しています。
以上、診療科偏在における外科側の問題と対策について記載しました。外科希望者が少ない現状は、他の点にも大きな影響を及ぼしています。たとえば医師の地域偏在の問題です。毎年の外科希望者が数名の県は少なくありません。これではその地域における外科診療はストップしてしまう可能性があります。県や大学を跨いだ連携を行わなければ、外科分野の地域医療を維持できない段階まで来ている所もあります。その対応策・解決策の一つとして遠隔手術の導入が重要と考え、学術界、産業界、行政のオールジャパン体制で研究を推進しています。これまで以上に垣根を低くしてお互いに助け合えるようになれればと願っています。
本学会はこれまで外科の魅力を伝えるべく様々な取り組みを行ってきましたが、現実には医学部の学生と初期研修医には、本学会の考えが伝わっていません。彼らに声が届く工夫を如何に行うかも重要な課題です。U-40の会員の情報拡散力に期待したいと思いますが、われわれ中堅以上の会員も一人一人の問題として勘案しなければなりません。
外科医減少問題に対する本学会の活動の一部を紹介しましたが、若い年代の「学びやすさ・働きやすさ」は重視しなければならない最重要課題です。本学会は外科医師としてのスタートから生涯にわたって伴走する役目を担っています。会員の皆様には多くの若手医師が外科学に目を向けるよう、重ねてご支援をお願申し上げます。

 令和4年4月

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