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市民講座

第120回日本外科学会定期学術集会 第46回市民講座(web開催)

日時 2020年8月13日(木曜日)
テーマ 手術でしか救えない”命”と向き合う~外科医療の未来~
開催形式

WEB配信

座談会記事

第120回日本外科学会定期学術集会「命と向き合い 外科医として生きる」記念座談会

外科医の誇りと最新技術を、より良い医療のために

今年、横浜で開催される予定だった120回目の日本外科学会定期学術集会は、新型コロナウイルス感染拡大のリスクを最小限にするため、完全WEB形式での開催となった。外科学の未来を切り開く技術革新、次世代手術支援ロボット、外科医の精神構造に迫るなど多彩なプログラムが、リアルタイムライブストリーミング配信され、「未来を担う若手外科医からのメッセージ: 横浜宣言2020」も発信された。
開催を記念し、2020年1月に、若手医師2人と、定期学術集会会頭の北川雄光先生、日本外科学会理事長の森正樹先生との座談会が実現した。フリーアナウンサーの岩瀬惠子さんの進行で行われた活発なやりとりの模様をお届けする。

外科でなければ救えない、最後の砦の責任と手応え

岩瀬 今日は、若手からベテランまで、ご活躍の医師のかたに集まっていただきました。私たちは日頃、外科医を扱ったドラマや映画を楽しんでいますが、実際の外科はどのような仕事で、医療のどの範囲までを担うのか、実はよくわかっていません。一般の方向けに、現役医師の立場から教えていただけますか。

 外科領域は、心臓血管、消化器、呼吸器、小児、乳腺、内分泌など非常に広いのですが、共通して言えるのは「メスで治す」ということです。手術を中心に、患者さんの状態をコントロールする「術前管理」と、手術後から日常生活に戻るまでを診る「術後管理」も外科医の重要な役割です。また最近では、腫瘍内科や放射線科、投薬の専門家など多数の科と協働することも必要です。

岩瀬 歴史の中で変わってきたこともありますか。

 悪いところを切る、という基本は同じですが、そのアプローチ法には変化もあります。昔は大きくおなかを切って、患部を見て手術していましたが、今は小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術がメインになってきています。

岩瀬 切るのが外科の仕事なんですね。皆さんはその外科をなぜ選ばれたのでしょうか。

北川 私の学生時代はがんが転移するメカニズムが解明されてきたころで、自分もそのがんの治療に携わりたいと思いました。また、医学部6年の時にアマゾンの奥地の病院で一人の医師と行動をともにし、マラリアなどの寄生虫疾患を診ながら外傷や出産も対応する様子を目の当たりにしました。「地球のどこかで医師として生きていくには、外科手術ができなければ」と実感し、自分の手で患者さんを救いたい、と考えたのです。

岩瀬 貴重な体験ですね。

古来 僕はもともと理系の教師を目指していました。でもある日、北海道の医師不足というニュースを見て、自分の地元の釧路で外科医が足りないと。それならば自分が外科医になって故郷に貢献しようと思ったんです。

石田 私の場合は医学部時代に結婚・出産をしたのですが、子どもを持ってみると、子どもの将来、その先の孫の成長が楽しみになる。そうした未来を断ち切ってしまうがんから人を救いたいという気持ちが強くなりました。外科手術はどうしても患者さんの体に負担をかけますから、なるべく薬だけで治ったほうが良いです。しかし、薬も効かない、切らないと命が危ない、というときは外科医しか救えません。助けを求める患者さんが最後に頼れる存在になりたいと思っています。

岩瀬 手術でなければ救えない命があるということで、外科は「最後の砦」といわれているんですね。一方で、非常に多忙な職場だと伺っています。

 常に1人の外科医が10~15人の患者さんを受け持っていて、ある患者さんの手術に向き合っている時もほかの患者さんの術前・術後管理や診察、家族への説明などをしなければならないので、基本的に忙しいですね。

石田 責任の重さなどの精神的な負担は覚悟していても、実際の医療現場に入ると、労働の肉体的な負担は大変です。長時間病院にいる、いつ呼び出しがあるかわからないなど。女性は外科医になったら結婚も出産も諦めなければならないと言われることもありました。

環境改善と意識改革が、外科医不足解消の鍵

岩瀬 非常に意義深い外科ですが、今、外科医の数は減少しているそうですね。

 統計では医師全体の数が増加しているなかで、外科医の数は横ばいで、他科に比べると最も低い増加率です。さらに40歳以下の若手医師は減少傾向にあります。このまま外科医が足りなくなると、例えば手術が必要な患者さんが1カ月も2カ月も待たされたり、外科医が疲弊したり、医療安全上の問題も起こりかねません。

北川 基本的に外科治療には大きなリスクが伴います。最近は血管内治療や薬物医療などが発達し、相対的に外科手術の難易度が上がっています。外科医になるための修練もハードルが高くなる。そこに携わることに負担を感じる若い人がいるのでしょう。

古来 今の学生や研修医と話すと、外科よりも泌尿器科や皮膚科、形成などの「外科系」を志望する人が多いようです。働きやすいとか環境といった周辺の条件よりも、自分が本当にやりたいことを考えるべきだと、彼らには説いています。

岩瀬 医師不足は私たち患者にとっても非常に心配です。対策はあるのでしょうか。

 外科学会としても危機感を持ち、手段を講じています。一つは外科の魅力を早い段階で伝えるために、大学生のうちから実際の手術器具でトレーニングをしてもらう。また、外科医が手術を中心に術前術後管理に力を注げるように、そのほかの仕事は別のスタッフが請け負うようにするなど、ワーキンググループを作ってトライしています。

北川 1人が患者さんを長時間診るのではなく、ある時間になったら信頼できるチームメートに引き継ぐ、というのも長時間労働を解消する一つの方法です。そのためには、医師にも患者さんにも意識の改革が必要です。

石田 そうですね。医師の自己犠牲イコール患者さんに寄り添っている、という概念はもう時代にそぐいません。きちんとローテーションを組んで、勤務体制を整え、勤務時間内で研鑽を積み、要点を押さえた教育も必要だと思います。

岩瀬 消化器外科の女性医師は少ないと聞いています。石田先生のように、子育てしながら活躍されている方がいるのは頼もしいですね。

石田 私の所属する神戸大学の医局も、外科医の夫も、一緒に体制を作っていこうという考えで、サポートしてくれます。今後は労働環境を変えていくことが大事だと思います。自分の人生を通して、子育てしながらでも外科ができるということを後輩たちに示していきたいんです。実際に手術して退院した患者さんが「ご飯が食べられるようになった」と報告してくれるのは、なにものにも代え難い喜びです。

古来 外科医が十分に増えることは理想ではありますが、北海道など、都市からの距離が非常に遠い地域もあります。人口減少と高齢化が進む地方で十分な外科治療が行える大きな病院を維持するのは難しい。地方で緊急手術が必要になったとき、患者さんを早期に都市部に搬送し、家族や患者さんの移動、滞在などに国や行政のサポートが得られる体制をつくることも検討しなければならないと思います。

AIや遠隔手術ロボットが、治療のブレークスルーに

岩瀬 多忙な外科医を補佐する新たな技術については、いかがですか。

北川 今はどの分野でも、AI(人工知能)を使って、単純作業を置き換えたり、ヒューマンエラーを防いだりする補佐が行われています。医療分野でも、より正確な診断やリスクの洗い出しをするなどの自動化が進められています。高度な外科手術は我々外科医しかできません。それ以外の業務をAIに置き換える方向に行くでしょう。

 今後、5Gの時代になり通信速度と容量が飛躍的に上昇することで、ロボットを使った遠隔手術が可能になります。たとえば、北海道の病院にロボットとそれを操作するコンソールを置けば、東京の病院のコンソールとつなぎ、複数の医師で連携しながら手術を行うことが可能です。もちろん通信速度が安定した上でのことですが、実現すれば手術に必要な人員が削減できるだけでなく、若手医師の実践的な教育にもなり、遠く離れた地方の患者さんも救える。さらに、医療体制がまだ整わない他の国々にも貢献できるでしょう。

岩瀬 すばらしいですね。

北川 外科の歴史をふりかえると、麻酔技術が進歩したり、感染予防が行き渡ったり、大きなブレークスルーが外科を発達させてきました。これから、若い外科医たちの「武器」となる新しい技術が次々と登場してきますので、外科医が自らの手で命と向き合う場面が増え、一層やりがいのある時代が来ると思います。

岩瀬 テクノロジーの発達も喜ばしいですが、やはり自分の命は人の手で助けてもらいたい。外科医の職場は働きやすいものであって欲しいし、日本の高度な医療技術をぜひ維持して発展させて欲しいと思いました。今日はありがとうございました。

一般社団法人日本外科学会理事長
九州大学消化器・総合外科
森 正樹先生

もり・まさき/1980年九州大学医学部第二外科入局。86年同大学医学系大学院修了。91年ハーバード大学留学。98年九州大学生体防御医学研究所教授。2008年大阪大学大学院医学系研究科教授。18年九州大学大学院医学研究院教授。専門は下部消化管悪性疾患、良性疾患の外科治療など。14年から日本外科学会理事、17年理事長に選任される。

第120回日本外科学会定期学術集会会頭
慶應義塾大学外科(一般・消化器)
北川雄光先生

きたがわ・ゆうこう/1986年慶應義塾大学医学部卒業、93年カナダブリティッシュコロンビア大学留学、96年外科副医長として川崎市立川崎病院出向、97年慶應義塾大学助手、2004年同大学専任講師、07年同大学教授(医学部外科学)。09年慶應義塾大学病院腫瘍センター長、11年同副病院長、17年同病院長。専門領域は一般・消化器外科。

神戸大学医学部附属病院
食道胃腸外科
石田苑子先生

いしだ・そのこ/2012年神戸大学医学部卒業、13年神戸大学医学部附属病院初期研修医、15年国立病院機構神戸医療センター外科後期研修医、17年神戸大学大学院医学研究科外科学講座食道胃腸外科学分野入学。日本外科学会外科専門医。専門領域は一般・消化器外科。

札幌医科大学附属病院
消化器・総合、乳腺・内分泌外科
研修医
古来貴寛先生

こらい・たかひろ/2014年札幌医科大学医学部卒業、同年市立函館病院初期研修医、16年東京女子医科大学八千代医療センター小児外科後期研修医、19年札幌医科大学消化器・総合、乳腺・内分泌外科学講座。札幌医科大学大学院医学研究科入学。日本外科学会外科専門医。

〈モデレーター〉
アナウンサー
岩瀬惠子さん

いわせ・けいこ/1986年聖心女子大学文学部外国語外国文学科卒、フジテレビ入社。91年ニューヨーク支局勤務。「FCIワールドネットワーク スーパータイム」「ニュースレポート」等を担当。94年帰国。97年フジテレビ退社、フリーに。RFラジオ日本「岩瀬惠子のスマートNEWS」(月曜日~金曜日)出演中。

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プログラム

司会:岩瀬 惠子(アナウンサー)

開会の言葉

北川 雄光(慶應義塾大学外科学(一般・消化器)教授/第120回日本外科学会定期学術集会 会頭)

1.重症外傷手術 ー命をつなぐ至高の技ー

松本 尚(日本医科大学救急医学教授、日本医科大学千葉北総病院救命救急センター長)

2.身体に優しい最新の心臓血管手術で命を救う

志水 秀行(慶應義塾大学外科学(心臓血管)教授)

3.小さな赤ちゃんに対する肝移植:世界中の病気のこども達を助けよう

笠原 群生(国立成育医療研究センター臓器移植センター長)

4.患者らしくではなく、あなたらしく生きるいのちを支える手術ーサバイバーシップの観点からの乳房手術ー

山内 英子(聖路加国際病院乳腺外科部長)

5.がんと向き合うとは?:胆道がんに対する超高難度・高侵襲手術から考える

阿部 雄太(慶應義塾大学外科学(一般・消化器)専任講師)

6.外科医を取り巻く問題と将来展望

森 正樹(九州大学消化器・総合外科教授、一般社団法人日本外科学会理事長)

参加申込

参加登録は不要ですので、どなたでもご視聴いただけます。

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